臨床研究

月経前症候群(PMS)に関与する腸内細菌を発見
─食事介入による腸内細菌叢の改善が月経前症候群の改善・緩和に寄与する可能性─

掲載誌国際学術誌 『International Journal of Women's Health』(2022年9月29日付掲載)
研究グループシンバイオシス・ソリューションズ株式会社 代表取締役社長 増山 博昭
同上 研究開発本部 大熊 佳奈・江原 彩・香野 加奈子・大舘 綾乃 他
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PMS論文表紙

月経前3~10日間に心身の不調が起こり月経が始まるとその不調が消えていくという症状が数か月にわたり続く状態を月経前症候群(PMS)と言います。PMSの情緒的症状には抑うつ、怒りの爆発、易刺激性・いらだち、不安などがあり、身体的症状には乳房緊満感・腫脹、腹部膨満感、頭痛、関節痛・筋肉痛などがあります。PMSの原因は、女性ホルモンの変動や、神経伝達物質の異常、食生活との関連が考えられていますが、未だ不明です。また、これまでPMSと腸内細菌叢の関連についての研究は報告されていませんでした。

本研究では、PMSと腸内細菌叢の関連を分析するため、PMSに罹患している日本人女性24名(PMS群)と健康な日本人女性144名(対照群)の便検体から得られた腸内細菌の組成データを用いて、その多様性の解析と腸内細菌叢の構成の比較分析を行いました。

各検体のα多様性を解析した結果、検出された菌属数とSimpson指数は、対照群に比べPMS群で有意に高いことが分かりました。また、β多様性を非計量多次元尺度法で可視化し(図1)、PerMANOVAの検定を行ったところ、PMS群と対照群には有意な差がありました。図1を見るとPMS群と対照群の双方が分布しているエリアが見られ(黒点線)、対照群であってもPMS群と類似した腸内細菌叢の構成をもつ被験者の存在を示しており、これらの被験者はPMS未病者の可能性があります。

図1:PMS群および対照群のβ多様性

次に、PMS群と対照群の腸内細菌の相対存在量(占有率)の平均値を比較した結果、BifidobacteriumBlautiaCollinsellaの占有率がPMS群で有意に高いことが分かりました。特に、PMS群では対照群に比べてCollinsellaの占有率が顕著に高く、その差は約4.5倍でした。また、対照群の中にはCollinsellaの占有率がPMS群と差がない被験者が存在しており(図2 点線)、これらの被験者はPMS未病者の可能性があります。PMS未病者の存在は図1で示した結果と一致しています。

図2:PMS群と対照群で占有率に有意差があった3菌属の比較

本研究により、PMS罹患者に特徴的な腸内細菌叢が存在することが明らかとなりました。特にPMSとの関連が強く示されたCollinsellaは食事との関連も報告されていることから、PMSの予防や改善・緩和にはCollinsellaをターゲットとしたプレバイオティクス等の食事介入が有効である可能性があります。

原論文情報

Kana Okuma, Kanako Kono, Machiko Otaka, Aya Ebara, Ayano Odachi, Hidetaka Tokuno, Hiroaki Masuyama.
Characteristics of the Gut Microbiotain Japanese Patients with Premenstrual Syndrome. International Journal of Women's Health 2022(14):1435-1445,
doi.org/10.2147/IJWH.S377066.
https://www.dovepress.com/articles.php?article_id=78659